2009年2月8日日曜日

「生命の息吹き」ピンク・フロイド


原題:「BREATH IN THE AIR」

■「狂気
「The Dark Side Of The Moon」収録

 



 呼吸して 空気を吸い込んで
 心配する気持ちを怖がらないで
 ここから出て行こう
 でも私を残してはいかないで
 周りを見回し 自分自身の居場所を見つけるんだ
 長い間あなたは生きてきた そして高く飛び続けた
 これからも微笑んだり 涙をを流すだろう
 そして触れるもの見るものすべてが
 これからのあなたの人生そのもの

 走れ 野うさぎよ走れ
 穴を掘るんだ 太陽のことは忘れて
 そしてついにそれをやり遂げた時も
 休んではいけない
 すぐまた次の穴を掘り始めるんだ
 長い間あなたは生きてきた そして高く飛び続けた
 でももし潮の流れにうまく乗って
 最大級の波の上でうまくバランスを取れたとしても
 少しでも墓場へ早く着こうと競争しているだけなんだよ
 
  


 Breathe, breathe in the air
 Don't be afraid to care
 Leave but don't leave me
 Look around and choose your own ground
 For long you live and high you fly
 And smiles you'll give and tears you'll cry
 And all you touch and all you see
 Is all your life will ever be
 
 Run, run rabbit run
 Dig that hole, forget the sun,
 And when at last the work is done
 Don't sit down it's time to dig another one
 For long you live and high you fly
 But only if you ride the tide
 And balanced on the biggest wave
 You race toward an early grave.

 


【解説】
プログレッシヴ・ロック最大のヒットアルバム「狂気」(1973)の最初の曲、「I.スピーク・トゥ・ミー/II.生命の息吹き」の後半部分、アルバムで最初にボーカルが入るところだ。作詞はベース&ボーカルのロジャー・ウォーターズ。

心臓の鼓動のような音。後の「マネー」で出てくるSE、「虚空のスキャット」の予告のような女性の声が入り交じり、ゆったりとしたサウンドが始まる。今改めて聴くと恐ろしく音が少ない。それでもこの独特の心地よい浮遊感に魅き込まれる。
 
そして力を抜いたボーカルが入る。このボーカルがいつ聴いても素晴らしい。美しいハーモニーだ。優しい声、優しいサウンドに包み込まれる感じ。ピンク・フロイドはコンセプトやムードで語られることが多いが、ボーカルハーモニーの魅力は飛び抜けている。
 
詞の内容も、疲れた友人に語りかけるような内容だ。“Breathe”(呼吸して)で始まるインパクト。緊張を和らげ楽にしろとも取れるし、生気を取り戻せ とも取れる。今現在の状況の説明はない。それは社会的にも個人的にも閉塞感のある現実という共通の認識に立っていると言える。そこから、そういった生き方 から逃げ出そう、そうこの詞は語りかけてくる。自分で触れるもの、自分で見るものを大切にする生き方に戻ろうと。
 
“野うさぎ”と訳した“rabbit”は、アナウサギと呼ばれる穴居性のうさぎ。臆病さをイメージさせる動物であるが、この“rabbit”はもちろん彼が「呼吸して」と語りかけている相手のことだ。すなわち私たちと捉えてもいいかもしれない。
 
“Run”は“Leave”と同じで、今ここから逃げ出せということ。そして穴居性のアナウサギに、本来自分自身がやるべき穴を掘るという自然な行為に戻れと言っていると解釈したい。「太陽」つまり世の中のことは気にするな、自分自身の生活を取り戻せと。
 
自 分を見失ってしまえば、一時は上手くいく(最大級の波の上でバランスを取る)ことができても、死に急ぐだけなんだと、詞は語りかけてくる。King Crimsonが「21世紀のスキッツォイドマン」で救いのない現実と未来を暴力的な音で現したのと対照的に、同じような現実の認識に立ちながら、この曲 にはまだ希望がある。いや少なくとも希望を持とうとしている。本当は“Leave”も“Ran”も、もうできないのかもしれない。
 
そうしてこの曲の後、現実の「狂気」的世界が描かれていくのである。
 
ちなみにアルバムトータル時間は約43分。それでこれだけの傑作になる。最近の70分越して大曲ばかり詰め込む傾向には、個人的に猛省を促したい気持ちで一杯である。


6 件のコメント:

  1. すばらしい!

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  2. すばらしい!

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    1. 楽しんでいただけて嬉しいです!

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  3. このうえにない素晴らしい解説、ありがとうございます。

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    1. コメントありがとうございます!

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  4. 解説に感銘を受けました。
    とても解りやすいです。
    さすがはもと先生ですね。

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