2009年3月5日木曜日

「イージー・マネー」キング・クリムゾン


原題:Easy Money

「Larks' Tongues In Aspic
(太陽と戦慄)」収録






通りにいるおまえのファンたちは
はやしたて足を踏みならし始める

おまえの身体つきに興奮してさ
おまえがモカシンのスニーカーで軽やかに歩く時にね

そしてオレは心臓が破裂するかと思ったもんだ
おまえ
が掛け金を倍に増やした時に
魅惑的な指さばきでね
だって
おまえは決してただの女たらしか勝者かを
見分けることができないから


あぶく銭

おまえの指と顔で
集団があったら気取って歩き回りながら
その場所にグラスを投げろ
深紅のガーターベルトの色を見せろ

オレたちは金を家へと持ち帰り
家の王座の周りでだらだらと暮らすことができる

昔からいる犬は骨を噛むことができ
2週間は全能なる神をなだめておくことができる


オレたちは気取った行動には関心がなかった
だからオレの
金は古い果物入れ用のビンに入れている
そして
おまえを自動車に乗せて連れ出す
おまえの幸運の星の下で儲けながら

ただあぶく銭を儲けながら



Your admirers in the street
Got to hoot and stamp their feet

In the heat from your physique

As you twinkle by in moccasin sneakers

And I thought my heart would break

When you doubled up the stake

With your fingers all a-shake

You could never tell a winner from a snake


Easy money


With your figure and your face

Strutting out at every race

Throw a glass around the place

Show the colour of your crimson suspenders

We could take the money home

Sit around the family throne

My old dog could chew his bone

For two weeks we could appease the Almighty


Easy money


Got no truck with the la-di-da
Keep my bread in an old fruit jar

Drive you out in a motor-car
Getting fat on your lucky star

Just making easy money

【解説】
U.K.に「Danger Money」(「危険手当」の意味)という曲があったので、King Crimsonから似た表現の曲をということで今回は傑作「The Larks' Tongues In Aspic(太陽と戦慄)」(1973)から「Easy Money」。「easy money」とは「簡単に手に入る金」、つまり「あぶく銭、ぼろ儲け」などの意味。

2連目に「With your fingers all a-shake 」という表現が出てくるが、「ashake」だと「震えて」だから「指を震わせて」となるが、「a-shake」と「a-」とハイフンが入っているため敢えて「非…、無…(=non-, without)」と解し、「指を震わせもせずに」と取ることも可能かと思った。

ただコメントをいただき、無理してそう解することもないかと考え直した。「a-shake」という単語はなく、「ashake」自体が元々「a-」と「shake」から作られた単語だということ、さらに「a-shake」も曲を聴くにあたっては「ashake」と区別なく聞こえるだろうということもあり「a-shake」=「ashake」であると考えた。

そこに否定の意味合いではなく名詞を副詞化する「a」のついた単語なのだが、「ashake」という単語自体があまり一般的ではなく「a+名詞→副詞」という一般的な用法(asleepなど)に乗っ取って、半ば作られたような単語ではないか。実際英和にしても英英にしてもかなり詳しい辞典にしか「ashake」は掲載されていない。だから「a+名詞→副詞」で作られた言葉だということを明確にするために、敢えてハイフンを入れて「a-shake」と書いたのではないかと思うのだ。
これはいただいたコメント通り、表向き大胆な様子をしていながら、内心緊張していることの現れを示しているとも考えられる。

しかし「あぶく銭」稼ぎを生業としているにしては、震えちゃまずい気もする。それもfingersだから相当目立つ震えだ。例えばそれは実際には「オレ」にしか見えない「震え」なんじゃないだろうか。あるいは緊張している「オレ」が勝手に見てしまっている「震え」。「オレ」が言う。「見ていてビビったよ、指が震えてたぜ」。しかし彼女はきっと言うだろう「あたしの指が震えてた?バカ言うんじゃないよ」と。ヒヤヒヤしているの「オレ」の方なのだ。
  
あるいは、元の単語である「shake」には「震える、震わす」という意味以外にも、「 煽情的に腰を振る/ゆする」や「〈さいころを〉投げる前にカラカラ振る」などの意味もある。そこでもっと自信ありげな「魅惑的な指さばきで」というような意味に解しても良いのかもしれない。ここでは敢えてその意味で解してみた。
 
だってきみは決してただの女たらしか勝者かを 見分けることができないから」というのは、「(金もない)ただの女たらし」じゃなく「(人生の)勝者、成功者」でないと、お金が入らないからだろう。いろいろな集団の人間の気を引くにしても、「winner」が引っかかってくれなければ金にはならない。

歌の上では、間奏パート後に再び1連が繰り返されてから、「Go no truck...」という最終連が続くが、ジャケットでの印刷には1連の繰り返しはないので、主語を一つ前の連の最終行にある「we」と取った。金を儲けても気取ったり上品ぶったりはしない。「bread」には「金」という意味もあるので、儲けた金はフルーツ瓶に入れてある、まぁその辺に放ってある程度の意味だろう。

さてこの「あぶく銭」。結局、見た目が魅力的な女と、そのヒモのような男の話というところか。女の魅力を武器に金持ちから金をふんだくって、悠々自適に暮らしているんだぜっていう歌だ。

このアルバムには歌詞付きの曲が3曲入っているが、他の曲に比べちょっと軽めな内容の歌といった感じか。そこに「日常の享楽に堕落した人々」(「キング・クリムゾン 至高の音宇宙を求めて」北村昌、シンコーミュージック、1981年)を見るのもよし。ただ個人的にはあまり批判的な意志はこの曲からは感じられない。

むしろそうした生き方を含めた、人間が抱えている業というか、真っ当でない側面というものもあることが、アルバムの中で示されている気さえする。さらに言えばそうした生活しかできない男「オレ」の悲哀か。

考えてみれば女に稼がせていると言いながら、その行動をビクビクしながら見ているし、特に贅沢もせず「あぶく銭」だと言ってその日暮らしをしている二人である。どうもそのビクビクは、ミスするなっていうことだけでなく、彼女を心配しての気持ちも大きいように思うのだ。つまり二人は愛し合っている感じがするのだ。


だから「オレ」は憎めない男なのだ。だから‘堕落した人々’として批判的な印象が、あまり感じられないのかもしれない。

4 件のコメント:

  1. a-shakeのハイフンにはさすがに気がつかなかったなぁ。
    自分の頭のなかでは完全にashakeであり、
    勇ましい姉ちゃんもさすがに内心ビビっているところを隠そうとしている情景が
    いきいきと浮かんで、すっかりそういう詞だと思い込んでいた。
    ほとんどの人がそう思っているだろうし、
    英語圏の人達も耳で聞いている限りはashakeだと思っているだろう。
    ウェットンだって・・・ってライブではこの詞で歌っていないか、
    音入れの時に気づかずに歌っていたかも知れないなぁ。
    ビビらずに札を張るあでやかな女という方が自然だが平板な印象だし、
    内心の緊張を書き加える事で立体的描写になっているのも捨てがたいが、
    きっとパーマー=ジェームスの意図はきっちりした対比、
    ニュアンスを整理してそれをわかりやすくする事を優先したい。
    というか、わざわざ造語まがいのことまでしてるa-shakeが作詞者の意図なら
    何よりもそれを尊重すべきだろう。

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  2. コメントありがとうございます。

    ashakeと普通読むだろうし、聞くだろうし、理解するだろうと思います。

    ただ、わざわざa-shakeと書いたのなら、こちらもわざわざひねくれて取ってやろうかと思ったまでです。

    もしかするとちょっとしたいたずら心で、リチャード・パーマー・ジェイムズはハイフンを入れて、アンビバレントな表現ぽくしてみただけかもしれないし。

    ただ、どちらにしても女の人にはあまり緊張は感じられない気がします。仕事となると、もう美貌と才能で大胆なんだろうなと。

    むしろビクビクしているのは「オレ」の方。そこが何とも面白いし、こんなことをして金を稼いでも「あぶく銭」としてしか使えなくて、それでも二人で暮らせるのを良しとしている「オレ」は、きっと彼女を愛しているんだろうなぁと思うんですね。

    わたしはそういう関係自体に、深みを感じてしまいます。

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  3. やっぱりわざわざひねくって解釈するのはやめました。

    物陰かなんかでハラハラドキドキしながら、一人「おめぇはわかっちゃないんだから、無理しちゃだめじゃねぇか」みたいなことを思いながら、緊張して眺めている「オレ」を前に、彼女は一人仕切っているわけですよね。そして男たちから金を巻き上げていく。

    やっぱりかなり小心者の「オレ」に比べると、こと男相手の賭け事に関しては、彼女は大胆で自信たっぷりな感じがします。

    おっしゃる通り、内心はビクビクしながら男たちとのゲームをしているのかもしれない。指が震えるっていうのも「オレ」にしかわからない微妙なことなのかもしれませんね。「オレ」の思い込みかもしれない。

    もっと深読みすれば、「ashake」という単語自体があまり英米でもあまり一般的ではないようなので、むしろ「shake one's finger at 〜:(警告脅迫たしなめなどを示すため)〜に向かって人差し指を上下に振る」という表現などからの連想も生まれるかもしれません。そうするともっと自信を持った指の動き、指さばきを示しているとも取れそうです。

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  4. やっぱ震わすんですか、
    んーーん、震わせもしないという
    イメージにやっとなじんできた所なのに。
    いずれにせよ何が正しい詞か、
    何が作詞者の意図か、
    特定しようとすると大変ですよね。

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