2009年6月25日木曜日

「ファース・オブ・フィフス」ジェネシス

原題:Firth Of Fifth / Genesis

Selling England By The Pound
 (月影の騎士)収録







道ははっきりしている、いかなる目もそれを見ることはできなくとも
道筋ははるか昔に敷かれていたのだ
だから神や人と共に、羊たちは囲いの中にとどまる
囲いから立ち去る道は幾度となく目にしているのに

彼はかつて威厳に満ちた
人間の家々を馬で回る
注意を払うことも喜びで目を見張ることもない
木々、空、美しいユリの花のあるその場所に映る
死の光景がすぐ下に横たわっていることを目にするから

山は街を素晴らしい景色から切り離している
まるでガン細胞が熟練の技術で切除されるように
全てを白日の下にさらそう

一本の滝は、彼にとってマドリガル
内海は、彼にとって交響曲

水の精オンディーヌの歌声は船乗り達に訴えかける
でもそれは海の精セイレーンの叫びに誘惑されるまでのこと...

今その川が海へと溶け込んでいくので
海神ネプチューンは新たな命を要求したのだ
だから神や人と共に、羊たちは囲いの中にとどまる
羊飼いが群れを連れ出すまで

時の砂は浸食された
絶えず姿を変える川によって


The path is clear, though no eyes can see
The course laid down long before
And so with gods and men, the sheep remain inside their pen
Though many times they've seen the way to leave

He rides majestic, past homes of men
Who care not or gaze with joy
To see reflected there, the trees, the sky, the lily fair
The scene of death is lying just below

The mountain cuts off the town from view
Like a cancer growth is removed by skill
Let it be revealed

A waterfall, his madrigal
An inland sea, his symphony

Undinal songs urge the sailors on
'Till lured by the siren's cry...

Now as the river dissolves in sea
So Neptune has claimed another soul
And so with gods and men, the sheep remain inside their pen
Until the shepherd leads his flock away

The sands of time were eroded by
The river of constant change

【解説】
ジェネシスの1973年作の傑作アルバム「セイリング・イングランド・バイ・ザ・パウンド(月影の騎士)」より、代表的なシンフォニック大曲。アルバムタイトルは「英国をポンド単位で量り売り」。ちなみに1ポンドは453,6グラム。わがイギリスは量り売りされ、叩き売られようとしているという、皮肉と批判と悲しみが盛り込まれたタイトルであり、アルバムでもある。

タイトルの「Firth Of Fifth」は、「フィフス湾」(あるいは「五番目の入り江」)という感じ。実際にスコットランドには、北海へと流れ込む「River Fourth(「フォース河」、あるいは「第四の河」)」の入り江として、通称「Firth Of Fourth(「フォース湾」、あるいは「四番目の入り江」)」という場所があり、それをシャレたものだと言われる。

フォース湾は海の手前で川幅が広く、湾のようになっている場所。このような、川とも海とも言いがたい場所がこの歌の舞台だ。ちょうど囲いの中の世界。荒々しい大海からも切り離され、美しい山奥の自然からも距離を置いた場所。まさにここが今私たちのいる世界そのものということだろう。

ギリシャ、ローマ神話の神々も今は人々とともに、囲いの中の羊と同じ存在。かつては水に、花に、海に神々が宿り、人々は神々とともに生き、威厳に満ちた豊かな生活を送っていた。しかし今は死の影が差す孤立した街、囲われた世界に生きる私たち。

もう一度、隠されていた自然の美、自然の神々が生き生きと闊歩していた世界を取り戻そう。そうこの詞は歌っているように思える。そこでは川を行き来する時には水の精オンディーヌの歌声に魅了され、海に出ればセイレーンの声に幻惑され、時にはローマ神話の海神ネプチューンの生け贄も出さなければならない、そんなかつてのダイナミックな生と死の世界を。

ちなみに、ここに出てくる「madrigal(マドリガル)」とは無伴奏多声歌曲のこと。「Undinal」とは「水の精undine(ウンディーネ)、あるいはondine(オンディーヌ)の」という意味である。

しかしその自然から離れ、生け贄を差し出すことをやめること、つまり近代化、現代化することによって、われわれは、いわば囲いの中の世界に生きる存在となってしまった。囲いから出る道はわかっているのだ。見えなくともわかっている。しかしわれわれは、囲いの中に留まることを選んでいるのである。

さて、ここまでの流れで、この歌詞をある種の文明化批判として捕らえることができるかと思う。しかしここでまだ疑問が残る。唐突に出てくる「He(彼)」とは誰なのか。そしてまた「羊飼いが群れを連れ出すまで」とは何を意味しているのか。

ここからちょっと大胆な解釈を試みてみたい。

まず
「羊飼いが群れを連れ出すまで」を見てみよう。「flock(群れ)」とは、「よき羊飼い」としてのキリストに対して、全キリスト教徒、キリスト教会を指す時にも使う言葉だ。とすれば、「the shepherd」は“よき羊飼いイエス・キリストとなり、「the shepherd leads his flock away」は、「イエス・キリストが信者を(囲いから)導き出す」、つまり「現世の苦しみから救済する」ことを暗に示しているのではないか。囲いの中には「gods(神々)」もいるのだ。ギリシャ・ローマ神話の神は、キリスト教の神によって支配されてしまっている。

つまりギリシャ・ローマ神話的な豊穣な世界に取って代わった、「死の光景がすぐ下に横たわっている」世界とは、キリスト教世界のことではないか。

そして、木々や空、そして美しいユリの花にも喜びを感じない「He(彼)」とはイエス・キリストのことを指しているのではないか。実際一般的な意味としても「He」には「(キリスト教の)神」を言う場合がある。

とすればこの詞は、近代・現代的な、自然との調和を拒んだ、囲いの中の息苦しい生き方のみならず、そうした生き方や世界観を支えているキリスト教をも批判しているのではないだろうか。

雄大なキーボードや情感豊かなギターが活躍する一大シンフォニックなこの曲は、自然と一体となっていたかつての豊かな
ギリシャ・ローマ神話的世界を描いているのかもしれない。

キング・クリムゾン(King Crimson)がセカンド・アルバムとして「In The Wake Of Poseidon(ポセイドンのめざめ)」を発表したのが1970年。正確には「ポセイドンの跡を追って」という意味になるタイトルではあるが、ここでもポセイドン(Poseidon)というギリシャ神話の海神がイメージとして持ち出されているのも、時代的に無関係とは言えないのではないかもしれない。

この時期、現実批判は社会体制批判であるとともにキリスト教文化批判でもあり、それは一つの方向として、より豊かな神々の世界であるギリシャ・ローマ神話的世界の再評価として現れていたのかもしれない。

しかしそんなロマンティックな事を言っていられない切実な状況が、数年後にパンク・ロックとして吹き出すこととなる。


2009年6月16日火曜日

「アダージョ」ニュー・トロルス

原題:Adagio(Shadows)/ New Trolls

Concerto Grosso I
コンチェルト・グロッソ I)収録





アダージョ(影たち)

君が僕の近くにいてくれることを願いながら
ただ自分が独りであることに気づくだけ
太陽が再び輝く時を待ちながら
あまりにも遥か彼方へ消え去ったことに気づくだけ
死ぬこと
つまり永久の眠りにつくこと
しかしたぶん夢を見てしまうだろう
死ぬこと
つまり永久の眠りにつくこと
しかしたぶん夢を見てしまうだろう

Adagio (Shadows)

Wishing you to be so near to me
Finding only my lonliness
Waiting for the sun to shine again
Finding that is gone too far away
To die
To sleep
Maybe to dream
To die
To sleep
Maybe to dream


【解説】
ニュー・トロルスの傑作アルバムと言われる「Concerto Grosso I」は、旧LPA面に並べられた4曲からなるアルバムタイトル曲が、基本的に「La Vittima Dementi」という映画のサウンドトラックとして作られている。

そしてその歌詞の一部が、シェイクスピア(William Shakespeare)の作品の中でも最大規模の戯曲「ハムレット(Hamlet)」から取られている。それはアルバムジャケット中央に白抜きで、

 To die / to sleep / perchance to dream  William Shakespeare
                   Hamlet
                   a. III sc. I


と書かれている部分だ。「ハムレット、act III(第3幕)、scene I(第1場)」での台詞である。有名な「To be, or not to be: that is the question:」から続く独白部分だ。

歌詞ではこの部分を使用しているが、「perchance」は同様な意味の「maybe」に変えられている。「perchance」を古めかしい表現として避けたのか、単語の音として強すぎるたのか、あるいは曲と合わせたときの語呂の問題か。尚、歌詞はアルバムに掲載されていなかったので、上記のものは、わたしが聴き取ったものである。「Finding that is gone to fare away」とするものも目にしたが、意味が通らない。素直に上記のように聴き取った。

実際の歌詞は短く、サウンドトラックとして作られたせいか、4曲につながりが感じられるものの、歌詞として独立した内容を持つものというよりは、劇に伴って心理状態を示すような感じのものだろう。しかしこの短い歌詞がたびたび繰り返されるため、じわじわと心に残る。

自分の愛する人に、そばにいて欲しいという切なる思いを抱きながら、それが叶わぬ孤独を噛み締め、また再び会える時を待ちながらも、手の届かないほどに遠くへ行ってしまったことはわかっている。この苦しく悲しく、やり場のない思い。

問題の「to die, to sleep, maybe to dream」の部分は、「ハムレット」ではこの後に「Ay, there's the rub.(あぁ、それが障害となるのだ。)」と続く。

つまり、死ぬことは永久の眠りにつくこと。ただ、眠ると夢を見る。死ぬことは恐れない。しかしそれでこの苦しみから解放されるのか。眠るのと同じように、たぶんまたこの苦しみを夢見ることになるのではないか。

そこまで思い悩み苦しんでいる「話者」の嘆きが、この短い表現に潜んでいる。

15本のヴァイオリンと2本のチェロからなるストリングス・オーケストラの美しさ、ヴァイオリン・ソロの見事さ、そしてストリングスと見事に融合したニュー・トロルスのメンバーのプレイの素晴らしさが、この短い言葉にさらに深い感情を注ぎ込んでいく。シェイクスピアの名フレーズを活かし切った名曲だ。

曲タイトルを確認しておくと、「コンチェルト・グロッソ I」は「1. アレグロ(軽快な)」、「2. アダージョ(ゆるやかに)」、「3. カデンツァ(楽曲終止前の自由な独奏部)- アンダンテ コン モート(気軽にのんびりと)」と、17〜18世紀のバロック音楽の様式を意識したものとなっている。

しかし最後の「4. Shadows」はストリングスの入らないバンドのみの演奏で、クラシック色はなくなる。しかし歌われる歌詞は1〜3曲目とつながっているし、タイトルも「アダージョ」の副題『シャドウズ』に呼応している。ただし歌詞は以下の1連が上記の歌詞の前に加わる。


常に探し求めながら
決して見つけることが出来ない
闇の中の君の影
常に探し求めながら
決して見つけることが出来ない
闇の中の僕の影

Always searching
Never finding
Your shadow in the dark
Always seaching
Never finding
My shadow in the dark


確かにアルバムの半分は映画用に作られたものだとしても、このアルバムは映画のサウンドトラックではない、ニュー・トロルスのオリジナル・アルバムとして扱われている。

それどころか、映画を差し置いて、イタリアンロックの名盤としての地位を築いているのだ。経緯はともかく、本アルバムがサウンドトラックにならなかったことは、大きな意味があったと言えるだろう。

しかしどんな映画のどんな場面に使われたのか、ちょっと気になる、この4曲。

最後に、タイトルの「Concerto Grosso」であるが、これは「合奏協奏曲」という意味で、「数個の独奏楽器からなる小合奏群と弦合奏中心の大合奏群とによって演奏される協奏曲。バロック時代の代表的器楽曲形式」とのこと(「大辞泉」(小学館)より)。小合奏群がバンド、大合奏群が弦楽オーケストラという関係から付けられたタイトルかと思われる。


2009年6月12日金曜日

「天の支配」ピンク・フロイド

原題:Astronomy Domine / Pink Floyd

The Piper At The Gates Of Dawn
 (夜明けの口笛吹き)収録






ライム色と透明な緑色、二つ目の場面
君がすでに知っている青色との戦い
ふわふわと下降し、戦いの音は
地下の、氷のように冷たい水のあたりで反響する
木星、土星、オベロン、ミランダ、
ティタニア、海王星、タイタン
星々も脅えることがある...

眩い星座達がはためく、キラキラ、キラキラ、キラキラ
バーン、ドカーン、ドカーン
天国への階段はダン・デアをも脅えさせた、そこに誰がいるんだろうと…

ライム色と透明な緑色
音は地下の氷のように冷たい水のあたりで反響する
ライム色と透明な緑色
音は氷のように冷たい水のあたりで反響する
地面の下で


Lime and limpid green, a second scene
A fight between the blue you once knew
Floating down, the sound resounds
Around the icy waters underground
Jupiter and Saturn Oberon Miranda
And Titania Neptune Titan
Stars can frighten...

Blinding signs flap flicker flicker flicker
Blam Pow pow
Stairway scare Dan Dare who's there...

Lime and limpid green
The sounds surrounds the icy waters underground
Lime and limpid green
The sounds surrounds the icy waters
Underground


【解説】
1967年に発表されたPink Floydのファースト・アルバムから、UK盤での最初の1曲である。ちなみにUS盤の最初の曲は「See Emily Play」で、すでにシングルで発売されていた「See Emily Play」は英国盤からは外されている。

シド・バレット(Syd Barret)がリーダーとして、ほとんどの曲を書き、歌い、ギターを弾いて作り上げた、唯一のフルアルバムであり、後のPink Floydとは雰囲気が異なる。しかしこのサイケデリック感や、スペイシーな空間的な広がりはすでに感じられる。ボーカルはギターのシド・バレットとキーボードのリック・ライト。

「天の支配(Astronomy Domine)」は、ドラッグで「シドがトリップした時に見た、惑星間の天空に浮かぶ自分自身をイメージしたも」(「夜明けの口笛吹き[40周年記念版]」ライナーノトより)だと言う。ちなみにタイトルの「Astronomy Domine」は当初「Astronomi Domini – an astral chant」と呼ばれていた(サイト「Astronomy Dominé」より)。「domine」はラテン語で「Load(主、神)」を意味する言葉。すると「神の天文学 - 天界の聖歌」というような意味か。

LSD体験に基づくとなると、明確な意味よりもイメージの連鎖と考えられるが、その連鎖を追いかけてみると、まず第一の場面に青い光に満たされた世界が現れていたらしい。そこに第二の場面として、その青色に戦いを挑むように緑系の色(ライム色と透明な緑色が広がってくる。青も緑も宇宙空間、あるいは天界の色だろうか。その戦いは音を伴っている。音は冷たい地下水が流れる地中で反響するかのように響く。

天空の星々はキラキラと輝きを増し、やがてあちこちで爆発が起こる。「Stairway」は「Stairway to Heaven」と解釈し、天に至る階段を上る、我らがヒーロー(シド・バレットが子どもの時によく読んでいたという)Dan Dareをも脅えさせる、そこには誰かがいるのかと。

ライム色と透明な緑色が青色との戦いに勝ち残る。音は冷たく響き続けている。

オベロンは天王星の第4衛星、ミランダは天王星の第5衛星、ティタニアは天王星の第3衛星、土星の第6衛星の名前だ。第2連の「signs」は「a sign of the zodiac(星座)」と解釈した。

Don Dareは1950年代にイギリスのFrank Hampsonによって創作された「Don Dare, Pilot of the Future(未来の飛行士、ドン・デア)」というSFコミックのヒーロー(右図はWikipediaより)。

宇宙空間での音と光の爆発、コミックヒーローまで登場する超自然トリップ体験。エコーの効いたギター、荒々しいドラム、イコライズされた声、終始流れるオルガン、淡々と歌うボーカル、どれもがコズミックでサイケデリックなサウンドを作り上げている。ラストのボーカルハーモニーが特に美しい。名曲。

なおジャケットは「40周年記念盤」でモノラル・ヴァージョンとステレオ・ヴァージョンの2枚組のもの。ちなみにシドが最終的にミックスを手がけて完成させたのはモノラル盤の方だという。

ちなみに同じ年に、ビートルズの傑作アルバム「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」が発表されている。


2009年6月7日日曜日

「ファンダンゴス・イン・スペイス」カルメン

原題:Fandangos In Space / Carmen

■Fandangos In Space
(ファンダンゴス・イン・スペイス)収録

             
  
  
  
彼女は月と太陽を求めた
そして雲の上へと駆け上がれるようになりたいと

彼女を行かせてやろう!

星々の谷間に抱かれ
火星を掴もうと手を伸ばすことで
彼女は誇りを感じるだろう

宇宙でファンダンゴを踊り
レースの衣装を身にまとって
彼女のカスタネットは
風の吹くペースを定める
宙に漂うスペイン的神秘性
彼女の髪を飾るビロードのような深紅のバラ
目にもまぶしい電飾の博覧会が
空を照らし、彼女を高みへと導く

She wants the moon and the sun
And to be able to run

On top of a cloud

Let her go!


Caught in a valley of stars

Reaching to grab hold of Mars

Will make her feel proud


Dancing fandangos in space

And wearing a co
stume of lace
Her castanets setting the pace

To the wind as it blows


Spanish mystique in the air

A velvet red rose in her hair

A dazzling electrical fair

Lights the sky, lifts her high



【解説】
ライナーノートに歌詞が掲載されていないため、ネットで探したが、なかなか見つからず「The (Unofficial) Carmen Home Pageの「Fandangos In Space」にあったものを使用した。これもサイト制作者が、実際の音楽から聴き取ったものだということで、正確かどうか不安が若干があるとのことだが、貴重なデータとして採用させていただいた。

Carmen(カルメン)はアメリカで結成され、イギリスでデビューしたバンドである。本家スペインのバンド以上に、フラメンコ色を強調した熱く燃える独特の音世界を作り上げた。

「Fandangos In Space」は1973年に発売された、同名タイトルのセカンド・アルバム収録曲。情熱的なボーカル、キレのいいリズムギターとカスタネットが印象的なスリリングな曲だ。曲の最後に前曲の「Retirando」のリプライズがアカペラで入るところが、何回聴いても涙が出そうになるくらいに感動的。

fandangoは伝統的なフラメンコの形式の一つで、陽気で軽快な3拍子系の舞踏曲。カスタネットを持つ男女二人が踊る場合が多いが、ここでは神秘的な女性が一人踊る様子が目に浮かぶ。

一見SF的、荒唐無稽なイメージの詞に思えるが、フラメンコを踊りながら、そのリズムとカスタネットやパルマ(手拍子)などの情熱的な音の渦の中で、彼女が踊りを超越して神秘的なパワーを、見るものにもたらす瞬間を描いているように思える。

彼女の踊りには月と太陽をともに取込んでいくような神秘性があるのだ。だから「Let her go!」彼女の思うがままに、ともにその世界へ入っていこうと、彼女を見ているわれわれは、彼女を解き放つ。

フラメンコというスペイン的な雰囲気の中で、彼女は宇宙の中心のような存在として、そのパワーを発散させていく。

最終連の眩い世界の様子に、当時のサイケデリックな感覚も感じられるが、基本的には彼女の踊りが生み出す忘我の世界、現実を超越した世界の描写に思える。

そもそもフラメンコには、そうした忘我の境地へ達する音と踊りが織りなすパワーがある。従って、fandangoを踊る彼女が当時のサイケデリックな感覚や宇宙、神秘といったイメージとつながることに、違和感はない。

いや、違和感を感じさせないくらい、ロックのフォーマットでそのフラメンコの熱さをCarmenが表現しているからこそ、歌詞の彼女の超自然性に浸ることができるのだろう。

そして激しく盛上がった最後で、一瞬の静寂の後の「Retirando」のリプライズ。美しいハーモニー。そしてそのままなだれ込む最終曲「Reprise」の激しいリズム。見事な構成である。

名曲にして名盤。

2009年6月4日木曜日

「クイッツ」パートス

原題:Quits

Timeloss(タイムロス)収録








どうしたら私にこんなことができたというの?
どうしたら私をこんなひどい目にあわせられたの?
なぜ私にこんなことをしたの?
なぜ私たちが共有していたものを壊してしまったの?

あなたを信じていたのに
そしていつもあなたにどうしたらいいか聞いていたのに
私が求めていたのは良いことだけ
それなのにあたなは私をこんな気持ちにさせた
だから聞きたいの、どうしてかを:
- 最初あなたは私を空高く連れて行ってくれると約束してくれた
それは最低の嘘っぱちだった
あなた自身の悲しい本当の姿を偽っていただけ

どうしたら私にこんなことができたというの?
どうしたら私をこんなひどい目にあわせられたの?
なぜ私にこんなことをしたの?
なぜ私たちが共有していたものを壊してしまったの?
どうしたら私にこんなことができたというの?
どうしたら私をこんなひどい目にあわせられたの?
なぜ私にこんなことをしたの?
なぜ私たちが共有していたものを壊してしまったの?

ただ横たわって死んでしまいたい
私を泣かしたのはあなたが最初
でも代わりに私はゆっくりと立ち上がり
私の前からあなたに消えて欲しいと言うわ

||: 一人にして! :||

(→崩壊


How could you do this to me?
How could you treat me this bad?
Why did you do this to me?
Why did you break this thing we had?

I put my trunt in you
And alwasys asked you what to do
All I wished for was good
Instead you pushed me down to this mood
So let me ask you jut why:
- At first you promised me to the sky
It was the biggest of lies
Your own sad truth in disguise

How could you do this to me?
How could you treat me this bad?
Why did you do this to me?
Why did you break this thing we had?
How could you do this to me?
How could you treat me this bad?
Why did you do this to me?
Why did you break this thing we had?

Just wanna lie down and die
You are the first one to make me cry
But instead I slowly rise
Want you to get out om my sight"

||:Leave me alone!:||

(→"Fall apart")

【解説】
スウェーデンのバンドPaatos(パートス)のデビューアルバム、「Timeloss」より、そのラストを飾る12分の大作だ。ボーカル部分は前半、女性が訴える言葉。いわゆる状況説明に近い。そして(→"Fall apart")が、彼女の“崩壊”していく様を描くような強烈なインストゥルメンタルパートとなっている。

もう、この歌詞にこもる怨念のようなものが凄まじい。ひたすら相手を問いつめ、追い詰めていく。悲しく、苦しく、悔しく、絶望的な女性の思いを、答える余地なくたたみかけるような恐さがある。

曲はブレークビーツのようなプログラミングされたドラミングに乗って、最初から疾走する。あたかも女性の思いが相手に次々と叩き付けられるかのように。

しかし彼女は死にそうな思いを断ち切り、立ち上がり相手に出て行くように言う。「ひとりにして!」と叫びながら。それは彼女が相手の真の姿を知ってしまったから。自分から去って行こうとする相手にすがろうとするのとは大きく違うのだ。

そこからが凄い。恐らくインストゥルメンタルで描かれるのは、彼のいなくなった彼女の心理的崩壊だ。デジタルビートにやがてドラムスが取って代わり、管楽器まで導入され疾走しつつ混乱をきたす音の固まりが続く。そして疲れ切ったかのように突然曲が終わる。

Paatosの持つ、世界の深さ、演奏力の素晴らしさ、ゲストのプレイヤーを入れても作りたい音の確固たるイメージ。恐ろしくカッコ良く、恐ろしく幽玄な世界。

ちなみにタイトルの「Quits」は、「quit」なら「屈する、やめる、立ち退く」などの意味を持つ動詞と「離すこと、放棄」などの名詞がある。「s」と複数形になっているから名詞か。そうすると彼女の期待していたこと、ことごとくに対する「あきらめ」とも取れる。

しかしまた「quits」という単語で「貸し借りのない」という形容詞としても使われる。例えば「I'll be quits with you.」と言うと、「この借りは返すからな(覚えていろよ)」という意味。

死にそうな絶望の中から、ゆっくりと立ち上がって相手を追い出した彼女が、次第に崩壊していく気持ちの中には、そんな思いも含まれているのかもしれない。とても意味深なタイトルなのだ。

傑作アルバムの最後を飾る強烈な曲。