2010年8月26日木曜日

「ナイト・アフター・ナイト」U.K.

原題:Night After Night / U.K.

■「Night After Night
   (邦題:ナイト・アフター・ナイト)」収録







高速道路に夕闇が立ちこめる
車の列は宝石に姿を変える
僕は半ば狂ったように車を走らせる
家路についているのならいいのに
ねぇ君 君と一緒にいないと
僕はまるで気が触れているみたいだよ

毎晩毎晩そしてまた次の夜も

僕は見知らぬ人の瞳をのぞき込み
過ぎ去った自分の姿を思い出す
きのうは過去の自分を置き去りにしようとする場所
未来はあまりに動きが早過ぎる
ねぇ君 君と一緒にいないと
僕はまるで気が触れているみたいだよ

毎晩毎晩
同じようなくだらないケンカ
もちろん僕はわかっているよ
それが毎晩繰り返されるのは良くないことは

滑走路に赤いライトが見える
飛行機は思った以上に速く動き
僕はエンジンの最後の響きを耳にする
そして残るは完璧な静寂
僕は思う 二人の間の距離
そして発せられることのなかった言葉

僕は思う 二人の間の距離
そして発せられることのなかった言葉


Darkness descends on the freeway
Traffic lines turning to stone
I'm driving myself half crazy
I wish I were headed for home
Say girl when we're not together
I feel like I'm losing my mind

Night after night after night
after night after

I look in the eyes of a stranger
Reminding myself of the past
Yesterday is what I will leave it
The future is moving too fast
Say girl when we're not together
I feel like I'm losing my mind

Night after night
It's the same lousy fight
And I know it ain't right that
It's night after night after

I see the red lights on the runway
The jet is moving too fast
I hear the last roar of the engine
And beautiful silence at last
Think of the distance between us
All of the words left unsaid

Think of the distance between us
All of the words left unsaid

【メモ】
イギリスのプログレッシヴ・ロック最後の大物バンドU.K.の、1979年発売の日本公演のライヴ盤「Night After Night」から、タイトル曲「Night After Night」である。
 
来日時にはすでに2ndアルバムのキーボード・トリオ編成になっていたのだが、このトリオU.K.は、後のAsiaに通じるキャッチーなメロディーと、かなりハードなインストゥルメンタル・パートが交錯する、独自の世界を築いていた。
  
この3人で4人編成時代を含めたテクニカルな楽曲を、ライヴでどのようにこなすのかは興味津々なところであった。実際のステージはギタリストのパートまでエディ・ジョブソンがカバーする素晴らしいもので、スタジオ編集作業などが大分行なわれていると言われるこのアルバムだが、それでもその出来の良さは格別である。
 
そのアルバムトップを飾る新曲「Night After Night」。最初聞いた時には、2nd以上にポップな感じの曲調にちょっと驚いた覚えがある。しかしこの曲も覚えやすいメロディーとともに、曲間にキレの良いオルガンソロが入る。このバランスがU.K.らしさなのだ。

そこで歌詞の内容であるが、「僕」は高速道路を車を走らせている。半狂乱のような状態になっている。目指すのは君の待つ家ではない。君は家にはもういないのだから。だから二人一緒にいられない今、僕は気が触れたようになって車を飛ばしている。

毎晩毎晩繰り返されたことを思い出す。それは後半で「the same lousy fight(同じようなくだらないケンカ)」である。それは他愛もないことのようであり、でも執拗に繰り返され止めることのできなかったこと。そんなことを毎晩繰り返すなんて、「僕」だって良いはずはないと思ってたのだ。

ちなみにCD添付のライナーノートでは「lousy tight」と記述されているが、ライナーノートの訳詞も「fight」で訳しているし、歌詞サイトなどで調べると「fight」となっており、実際に聴き取っても「fight」と歌って言うようなので、そちらを採用した。

「僕」はそうした過ちを犯し続けた過去の自分を振り返る。「a stranger」は自分とは思えなくなった自分のことではないか。その抜け殻のような、我を失っている自分の目をミラー越しか何かに見ながら「僕」は思う。過去の自分は過去(昨日)へ置いてこようと思っていたんだと。「will」とあるので、それはまだなされていないことがわかる。未来の予定あるいは意志でしかない。「future(未来)」の動きは早過ぎて、「僕」にはついていくことができない。「僕」は言い訳とも懺悔とも言えるような思いを吐露する。

そのついていけない未来とは何か。そもそも「僕」はなぜ気がおかしくなりそうになりながら、車を走らせているのか。家ではないのならどこに向って。

恐らく目的地は空港である。恐らく自分のもとを去り飛行機に乗って旅立とうとしている彼女を追って、空港にまで必死に車を飛ばしてきたのである。もちろん彼女を引き止めるために。
 
しかし滑走路にはすでに赤いライトが灯っている。飛行機はもう離陸体制に入っている。「The jet is moving too fast(飛行機は動きが早過ぎる)」とはそういうことだろう。「僕」は間に合わなかったのだ。飛行機が飛び去る爆音。そしてその後に残った見事なくらいな静寂。

僕は二人の距離が気持ちの面だけでなく物理的にもどんどん離れていくことを思う。そして伝えようと思いながら伝えられずに残された言葉の数々を思うのだ。

この曲はこうしたちょっとドラマチックながら、でもありがちな別れの一場面を綴ったものだろう。ちょっとしたいさかいの積み重ねが別れへと繋がる。そのプライベートな歌詞世界は、すでに「Heat of the Moment」に似てAsia的だと言えるかもしれない。

しかしジョン・ウェットンが歌うと、こんな別れの歌にも重みが出てくるのが不思議だ。

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