2011年5月26日木曜日

「キャリング・ノー・クロス」U.K.

原題:Carrying No Cross






 

「十字架を背負うこともなく」
  
静かにしてくれ!
これまで数々の過ちを犯してきた
いつも命令的な物言いをしていた
そして面白いと言われるものは全て退屈だった
結局僕はあなたのところへと帰ることになったのだ

制服には拒否反応を示した
僕にふさわしいなどとは決して思えなかった
それらは戦時中のドイツを思い出させた
そんなものが僕らに必要なのかは神のみぞ知るだ

誘惑には際限などなく
僕のモラルが低くなることなど知ったことではない
問題なのはいつだって
その場所が君のものかあるいは僕のものかということだけだった

目の前の十字架を背負うでもなく
崇拝する人もなく若かりし時の栄光として
語れるような話もなく
   
ただ空虚…何もない空っぽの空間だけ
自己を評価する基準すらなく行くべき場所もない
でも一つだけ僕が無視してきたことがある
だからこそその光は輝き続けていたのだった
  
これまで数々の過ちを犯してきた
いつも命令的な物言いをしていた
でも一つだけ無視できないことがある
不良少年だって全てを打ち明けることがあるんだよ
  
コントロールできない感情が
僕の心と魂を照らし出す
僕は一条の光を目にした、ゴールをものにしたんだ
心の平穏さにどんな価値があるというのか?


Stop!
been wrong so many times before 
was always laying down the law
And all attractions were a bore
they led me back to you

Uniforms were an allergy
they never felt quite right to me
they conjured wartime Germany
and God knows we need that

Temptation boundaries will never know
the time when my morale was low
the circumstances always show
the place was yours or mine

Carrying no cross before me
with no prize to idolize no story
to tell of adolescent glory
 
Just void...empty spaces nothing to show
no point of reference or place to go
but one thing I'd ignored and so
the light came shining through.

I've been wrong so many times before
was always laying down the law
one thing you cannot ignore
bad boys can come clean
 
Emotions I could not control
Illuminate my heart and soul
I saw a light, I scored a goal
and what price peace of mind?

【メモ】
2011年春に、ジョン・ウェットンとエディー・ジョブソンによる劇的復活と、1979年以来の来日公演を果たしたU.K.。この曲はその2ndアルバムのラストを飾る大曲である。スタジオアルバムは2枚しか作られなかったから、実質当時のU.K.のラストソングだと言ってもよいかもしれない。

この曲は12分に渡りボーカルとインストが見事に融合した、パワフルでプログレッシヴな展開が大きな魅力であるが、ではそこで歌われている内容とはどのようなものなのかは、あまり語られていない。

これを「bad boys(不良少年)」が過去の過ちを反省し、その結果の空虚さを嘆き、しかし新たな光を得るという、一種の改心の物語であるとする解釈が見受けられる。確かに過去の自分を今の目で「不良少年」だと見ているのは確かである。
 
しかし「制服」を嫌がったり、誘惑にモラルが守れなくなったり、縄張り争い・所有権争いばかりしているなどということは、若者にはありがちなことである。そうしたことを反省し、真っ当な人間として生まれ変わろうという歌には、どうも思えないのだ。

そうではなく、そうした無軌道で何も残らない生き方をしていた「僕」が、初めて「光」を得たという、喜びの歌なのではないか。そこで、わかりづらい歌詞なのでどう補って解釈するかという部分が大きいのだが、ここでは敢えてこの曲を「ラブソング」だと解釈してみたい。

では相手は誰なのか?タイトルに「十字架(cross)を背負う」という言葉があったりするので、「神(God)」であるとしたいところであるが、わたしはラストの一行「and what price peace of mind?」にこだわりたい。

これは「what price ...?」で「〜にどんな価値があるというのか?(価値などない)」という反語表現である。つまりそのまま考えれば、「僕(I)」は、心の平穏・平和を得たわけではないということになる。逆にそんなことに価値があるのか?と疑問を呈している、あるいは否定していると考えられる。

なぜか。

それはその最終連にある「コントロールできない感情が/僕の心と魂を照らし出す(光を当てる)」からであり、そうした感情的な高まりを「僕」は受け入れるだけでなく「ゴールをものにした/得点した(I scored a goal)」と高く評価しているからだ。心の平安ではなく、このような興奮状態は人間への愛ではないか。神への愛だとするには情熱的に思えるし、この曲があまりに宗教的過ぎてしまう気がするのである。

 
そこでわたしはこれを恋愛の詩だとしたい。従って第1連で出てくる「あなた(you)」は、恋人であると取る。「They led me back to you」とはつまり、昔からそばにいた女性に、結局今になってやっと気づいた状態を言っているのではないだろうか。

不良少年として多くの過ちを犯しながら、何も楽しめるものがなく、ただ空虚さだけが残っていた「僕」。たいして気にも止めず、無視(ignore)していた彼女の「僕」への思い。その思いの大切さに「僕」はやっと気づき、それがまるで暗闇を照らす一条の光のように「僕」の心に届いたのだ。

「Carrying no cross」は「(イエス・キリストのように)十字架を背負うことはせずに」と解釈した。「〜ing」で始まっているので、「十字架を背負うのは止めてくれ」という懇願や命令ではなく、付帯状況を示している文章だ。苦難や苦労を避けて過ごす自分自身のことである。続く空虚さと同じ自己認識であり、自己批判である。

彼女の思いを「僕」は無視してきた。それを利用するでも、否定するでもなく。だからこそその思いは「僕」の気づかないところで輝き続け、今「僕」はその輝きに気づいたのだ。

「でも一つだけ無視できないことがある/不良少年だって全てを打ち明けることがあるんだ」という表現は、唯一彼女に対して、素直になれた自分を言っているのではないだろうか。ちなみに「come clean」は「本当のことを言う、一切を白状する、本音を吐く」という意味であり、これを「改心する」と解釈するのはちょっと無理があると思ったのも、恋愛説を取った理由の一つである。

「あなた(you)」の思いを知り、それに応えることが、僕の平穏だが空虚だった心をかき乱し、「ゴールをものにした」ような心の高ぶりと喜びを、今「僕」にもたらしたのだ。

アルバム「Danger Money」はタイトル曲「Danger Money」で幕を開ける。それは危険手当(danger money)を得ながら命をかけて暗躍するハードボイルドな男の話である。人とのつながりは全く感じさせない孤独で冷酷な男である。この「Carryin No Cross」の「僕」も、無軌道で空虚な生き方をしてきている点では、「Danger Money」の男の若かりし時だと想像してみるのも悪くないかもしれない。

ならば、このアルバムは人との繋がりを、特に愛情を捨てて生きてきた男が、その愛情を最後に手にする・気づくというトータル性を孕んでいるとも言えるかもしれない。

もちろんこの曲のどこにも「愛(love)」という言葉は出てこない。しかしこの大曲が、改心の歌、宗教心に目覚めた男の歌では、あまりに唐突なんじゃないか。そんな思いで多少の無理を承知で「ラブソング」として解釈してみた。

ちなみに最初の「Stop!」は次第に大きくなるバックの音を消し去る一言である。これはこれから不良少年が「come clean(本音を語る)」ために、自分に集中してもらうための声かけじゃないか。そんな風に思うのだが。

こんな捉え方もできるかもということで、お楽しみいただければうれしいです。

    

2011年5月4日水曜日

「ラヴァーズ・エンド パートI」ムーン・サファリ

原題:Lover's End PT.I

Lover's End収録





「恋人の終わり」
  
土曜日の夜、君はめかしこんでいるけど、今夜は君を誰が家まで送るのかな?
君がいつも夢中なあの人は、深夜の待ち合わせ場所で待っている
僕が心の中で死にそうになっていて、雄弁な舌が言葉を失っていることを、君はちょっとだけ考えたんじゃないかな
何年もかけて積み上げたものが一夜にして崩れてしまうんだ、今夜は終世僕が忘れられない日になるだろう

だって彼女は僕の世界を変えられなかった

彼女は僕の一番の良さを見なかったんだ
彼女は僕の世界を変えられなかった
彼女は決してそのことをわからないだろうけれど

僕は責任を取って、時が傷つけることを知る人間のように歩こうとする

君の目の涙を押しのけるように同情の気持ちが現れたけど、でも僕の部屋10Aで夜を過ごすことは二度と無かった
歳を取るに従って僕は悔やむことが増えていく、僕らは一緒に歳を取っていくと思っていたのに
でも僕にはわかっているんだ、愛が消え去るこの時、僕はここで静かに立ち尽くしていて、もう一年になるけど、まだ僕は話をすることが出来ないっていうことを

君だけが僕の世界を変えることができたのに

君はいつも僕の一番良いところを見てくれていた
君だけが僕の世界を変えることができたんだ
僕にはわからなかったんだけれど

僕は幸せな日々を思い出し、君を傷つけたことを忘れようとする

そして僕らがいつか再び出会えても、僕らはこれまで言ったことをまた言い合うんだろう
僕は酒場を渡り歩き心の傷を哀れむ
まるで逃亡中の自作の殉教者のように
そしてもし君が僕を今でも愛しているなら、ねぇ
僕にそのことを教えてくれないか?
 

It's Saturday night and you're dressed to the 9's, who will walk with you home tonight?
The one you could always turn yourself to is out on a late night rendezvous
Guess you've known for a while that I'm dying inside and this silver tongue's lost all it's words
What took years to build up takes a night to tear down, and this night will haunt me for the rest of my life

'Cause she couldn't change my world

She didn't see the best in me
She couldn't change my world
She'll never understand

Now I carry the can, try to walk like a man knowing time will just wound our heals

Sympathy fights through the tears in your eyes, couldn't take another night at 10A
It seems the older I get the more things to regret, I thought we would grow old together
But I know I'm standing here quiet as love fades away, in a year now I still can't speak

Only you could change my world

You always saw the best in me
Only you could change my world
I didn't understand

I will try to remember the Halcyon days, forget that I ever hurt you

And if we'll meet again some day, could we say things we ever said
Now I'm stalking the bars and I pity my scars, like a self made martyr on the run from it all,
And if somehow you love me still, baby, would you let me know?


【メモ】
スウェーデンのニュータイプなプログレッシヴ・ロックバンド、Moon Safari(ムーン・サファリ)の2010年の傑作アルバム「Lover's End」から、アルバムトップを飾るタイトル曲のpart 1である。

“ニュータイプ”とわざわざ断ったのは、いわゆるプログレッシヴ・ロック的な起伏のある大曲を揃えながら、何よりもアカペラ・ボーカルグループ顔負けの、本格的なボーカル・ハーモニーを主軸に据えている点が、今までのどんなプログレッシヴ・ロック・バンドにもない新しさと懐の広さを感じさせるからである。


多少なりとも似ているものを探すとすれば、強いて上げてイギリスのCapability Brownの「Voices」ぐらいだろうか。とにかくボーカルのハーモニーの美しさと、シングルカットできそうなメロディーをふんだんに盛り込みながら、安定した演奏でドラマチックに展開して行くというのは、すでに狭義のプログレッシヴ・ロックのイメージを逸脱し、ある意味その呪縛を解き放って、可能性を広げていると言っても過言ではないと思う。


さてそのタイトル曲の内容である。

爽やかなハーモニー、軽やかなリズム、哀愁のハーモニカ、甘いメロディー。こうした明るいイメージとは異なり、その内容は暗く悲しいものだ。タイトルが示すように、恋人が自分のところを去り、他の人のところに会いに行くのを黙って見送る苦しくも悲しい心模様が描かれているのだ。
  
第1連の1行目に出てくる「dressed to the nines」は「着飾って、盛装して、めかしこんで」という表現だ。土曜の夜、恋人たちが会い、二人だけの幸せな時を楽しむ時間である。しかしめかしこんでいる「君」は「僕」と一緒にいるのではなく、誰か他の人に会いに行こうとしているのだ。「君が夢中になっている人」が誰かは「僕」は知っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。でも今日誰かが「君」と会うために待っているのだ。

今夜はそんな、「君」が「僕」以外の男性に初めて実際に会いに行くという、決定的な「恋人が恋人でなくなった日=恋人が終わった日」なのだろう。第1連3行目の「Guess」は「(I)guess」という風に補って取った。「君」は「僕」のことも多分多少は気には留めているのだ。 その上でやはり他の人に会いに行くことを選んだのである。


結局彼女は僕を代えられなかったんだ、そう「僕」は言う。ここでは「君」ではなく「彼女」と距離を置いて分析するかのように述べている。「君」と呼ぶような近い関係ではなくなったという気持ちの表れでもあるかもしれない。そうした喪失感、絶望感がこの「彼女」という言い方には感じられる。


第1連と第3連に、僕は話すことが出来ないという表現が出てくる。また第3連は「責任を取る(I carry the can)」という表現もある。さらに第5連(最終連)には「僕がかつて君を傷つけたことを忘れよう(forget that I ever hurt you)」とも「僕」は言っている。「僕」が別の男性の元へとめかしこんで今出て行こうとする「君」に何も言えないのは、結局過去に「僕」が冒した過ちが「君」を酷く傷つけたという事実があるからではないだろうか。


それは悔いても今更どうしようもないことなのだ。愛が消え彼女が去るのを黙って見ているしかないほどに、「僕」は彼女を傷つけたのだろう。最終連では自分のことを「自作の殉教者」と卑下すらしている。つまり「殉教者=愛のために命をも投げ出す人」を装っているんだと、自分を非難しているのだ。


しかし「僕」は彼女とずっと歳を重ねていきたかった。「幸せな日々(Halcon days)」を続けていきたかった。そして同じような表現が繰り返されるサビの部分が、2回目では「彼女」から「君」に、主語が変わっている。冷静に終わったこととして悲しみを受け入れようとしていた「僕」の中の思いが、やはり抑え切れなくなってきたかのようだ。まるで直接語りかけるように、かつてのHalcon daysの「君」の大切さを述べる内容になっているのである。


どのような事実が二人の間にあったかはわからない。もの凄く身勝手なことを「僕」は言っているのかもしれない。であったとしても、この押さえ切れない「君」への気持ちが、曲の途中から吹き出してきたかのような変化は、その切なさが聴く者の心に響く。


そして最後の言葉。「もし君が僕を今でも愛しているなら、ねぇ(baby)/僕にそのことを教えてくれないか?」何という悲しいつぶやきだろう。あくまで「僕」は黙って全てを受け入れようとしているのだ。でも心の中では「君」のことが好きで好きでたまらないのである。事情はわからない。でもこの最後の言葉には思わずジーンと来てしまったのだった。


この歌の歌詞は、僕の前から君が出て行くというある意味センセーショナルな場面を歌っている。しかもそれを押しとどめようとせず、何も言わず、ただ見送ろうとしている「僕」の心の苦しさが綴られているのだ。


しかしその切なさ・苦しさ・辛さに、美しいハーモニーと爽やかな曲調が、青春の1コマのような印象を与え、ドロドロした部分のない、みずみずしさすら感じられる世界になっているとことが、この曲の大きな魅力だと言えるだろうと思う。名曲である。


最後にお詫びを一つ。第3連の「at 10A」の意味がどうしても取れなかった。日本語訳には入れていない。ご存知の方がいらっしゃればぜひご教授いただきたい。


※ 「10A」についてlizardqueen7173氏から貴重なご意見をいただいた(下部コメントをご参照下さい)。そのご意見に沿って、「僕」の部屋の番号であると解して訳し直した。心から感謝いたします(2013.10.6)。